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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

とおひさは云った、「いつでもよ、あたいちゃんと知ってるわ」

「あの人って誰だ」

「参吉さんちにいる女の人よ、わかってるくせに」

おひさは彼を繁ちゃんのあんちゃんと呼ぶが、参吉のときは名前にきちんとさんを付けて呼んだ。

――こんなちびでも人の見分けはつくんだな。

繁次はそのころからそう思いはじめた。おひさは参吉が好きなんだ、よせばいいのにな、あいつはいまにきっとえらい人間になる、おめえみてえなみっともねえ子なんか、見向いてもくれやあしねえ。あんまり好きにならねえほうがいいぜ、などと思うこともあった。

その年の秋ぐち、七月にはいるとすぐに、長屋で痢病がはやりだし、妹のおゆりが五日病んで死んだ。激しい下痢が続き、しまいには血をくだしたが、蒲団から畳にとおるほどの血で、医者にも手当のしようがなかった。その長屋で子供がほかに三人、老婆が一人死に、隣りの町内でも幾人か死んだ。

「さぞ苦しかったろうね、可哀そうに」母はおゆりの死顔に化粧をしてやりながら、同じことを繰り返して云った、「あたしはこんなに躯が弱いんだもの、死ぬならあたしが死ぬ順じゃないか、あたしはもう先に望みはありゃあしない、おまえはこれからどんなにでも仕合せになれたのにね」