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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

「あたしは女だから口出しはしなかったけれど」と母は云った、「差配さんは膝づめでかなり強いことを云ったらしい、それからずっと飲み続けで、あのとおりどなりちらしているんだよ」

乱暴をしそうで怖いというから、おひさと増吉は母が預かった。おちつくまで預かるつもりだけれど、三人口を養うとなると、――と云いかけて母は口をつぐんだ。

「当分のことならなんとかなるよ」と繁次は云った、「だけど、差配が止めるだけで大丈夫なのかなあ」

「角さんがやる気になればだめらしいね」と母は云った、「芸妓屋へじかにしろ、女衒に頼むにしろ、親が金を取ってしまえば、お上の力でもどうしようもないそうだよ」

「ひでえもんだな」と繁次は幾たびも首を振った、「ひでえもんだな」

勝手で物音がしなくなり、おひさの啜り泣く声がかすかに聞えた。繁次がいってみると、おひさは流しの前に立ち、前掛で顔を掩って泣いていた。小刻みにふるえている肩に、赤い襷のかかっているのが、繁次の眼にはひどくいじらしくみえた。

「泣くなよ、泣いてる場合じゃあねえじゃねえか」と繁次は云った、「いくら親だからって、立派に働ける躯を持っていて、自分が怠けたり酒を飲んだりするために、子供を売るなんて非道なまねができるもんか、そんな者は親じゃあねえぜ、そうだろう」