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おちばのとなり
落葉の隣り
山本 周五郎
「小説新潮」1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页
「休みには家へ帰ってね、繁ちゃん」と暇を取って出てゆくときおひさが云った、「このごろあんまり帰らないんでしょ」
「帰らなくはねえさ」
「たいてえ芝居かどっかへゆくじゃないの、知ってるわよ」とおひさが云った、「でもこれからはなるべく帰ってね」
参吉がいるぜ、と口まで出かかったが、繁次は「うん」と頷いただけであった。
母親のくらしを助けるために、繁次は親方から三度金を借りているし、月づき幾らかずつは仕送らなければならないので、二十三で年期のあける筈が、なお一年延びることになっていた。彼は手のおそいほうだし、見栄えのするような仕事はできなかった。それできょうだい弟子たちからは軽くみられていたが、みてくれに構わず、いそがない品なら誰にも負けない物を作るので、特に箪笥などは名ざしで来る注文が少なくなかった。
繁次は晦日だけは家へ帰った。しかし母に幾らか渡すと、茶も啜らずにとびだしてしまう。参吉やおひさに会いたくなかったし、ぐちっぽくなった母の繰り言を聞くのも、気が重かったのだ。
「そういう年ごろになったんだね」と母はたびたび云った、「男の子が二十を越せば、自分の家なんか気ぶっせいになるんだろう、いいよ、おまえだけじゃないんだから」