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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

いろ恋とはまったくべつな、姉と弟という感じだったろう。いなくなられたあとも、好きな姉を失った、というふうな気持であった。

九月の十五日の休みに、おひさを芝居へ伴れていってやれ、と母に云われた。

「いやだよ」と繁次は断わった、「みっともなくって、そんなことができるかい」

「なにがみっともないのさ」

「長屋のみんなにへんな眼で見られるじゃねえか」そして殆んど呟くように云った、「芝居なら参吉につれてってもらえばいいさ」

「参ちゃんがどうしたって」

「なんでもねえよ」と繁次は云った、「――二三日まえに縫ってた参吉の袷も、ちょうど仕上ったんじゃねえのか」

母は口をつぐんだ。

三日まえの夜、おひさが縫いかけの袷を持って来て、ひとところどうしてもうまくいかないからと、母の手を借りていた。こりこりするような紬縞で、母は針を動かしながら「参吉さんにぴったりの柄じゃないか」と云っていた。繁次は木綿のほかに着たことはないが、参吉は渋い絹物を好んで作った。多くは紬で、色も柄も渋いものだし、光るような生地は決して使わないから、絹物といっても、着たところにいやみはなかった。

――酒でも飲むか。