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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

二段になっている文台のような道具で、青貝入りの金蒔絵がみごとに仕上っている。下段は四枚の扉があり、中央の二枚が左右に開くのだろう、合わせめに小さな銀の錠前が掛っていた。蒔絵は暗い朱色の地に、金でこまかく秋草が散らしてあり、ところどころに青貝が光っていた。

「たいそうなもんだな」繁次は手を伸ばして、そっとこばを撫でながら云った、「おれなんぞにはよくわからねえが、こりゃあたいそうなもんだ」

「なにか気のつくことはねえか」

「どういうことだ」

「これを見てくれ」参吉は指で、青貝の部分をさし示した、「ここと、ここと、これだ」

「うん」繁次は眼を近づけた、「――虫のようだな」

「鈴虫だよ、忘れちゃったか」

繁次は「鈴虫」と口の中で呟いた。

「いつか絵図を見せたろう」

「ああ」と繁次は云った、「口まで出かかってたんだ、小村屋の文台だったな、たしか」

「厨子っていうんだ、鈴虫の厨子だ」

「だっておめえいま、自分で作ったって云やあしなかったか」

「頼まれて写しを作ったんだ」

「へええ」繁次はもういちど熱心に見直した、「そういえば、あのとき見せてもらった絵図とそっくりのようだな、いつのまにやったんだ」