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おちばのとなり
落葉の隣り
山本 周五郎
「小説新潮」1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页
「金はいそぐのか」
「いそぐんだ」と参吉は云った、「じつは嫁を貰うことになって、いい家があったもんだから手付けを打ったんだが」
「嫁を貰うって」繁次はどきっとした、胸の中でどきんと音がしたような感じだった、「そうか、そりゃあよかった、そいつはいいや、そういうことならすぐ親方に話してみるが、値段のところがどうなるかな」
「自慢するようだが、これは鈴虫の厨子でとおる品だぜ、時代の色までそっくり写したんだ、腕のいい道具屋なら鈴虫の厨子で、金二百枚には売れるくらいなんだ」
繁次は妙な顔をしたが、「うん」と頷いてまた参吉を見た、「――いま家へ手付けを打ったって云ったが、世帯を持つのはここじゃあねえのか」
「ここじゃあまずいんだ、相手の育ちが育ちだからな、いくらなんでも」
「育ちが育ちって」繁次が遮った、「それはどういうことだ」
「それを云わなかったっけ」と云って参吉はてれ隠しに笑った、「初めに云うつもりだったんだが、相手は小村屋の娘なんだ」
繁次は口をあいたが、言葉は出なかった。
「おれがあの厨子の繕いにかよってたことは話したな」と参吉は続けた、「そのあいだずっとその娘、――おすがっていうんだが、茶や八つの世話をずっとしてくれていたんだ、年は十八、縹緻もちょっとずばぬけているが、おっとりした娘で、そうだな、坐っていろと云えば一