轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
あしはみていた
葦は見ていた
山本 周五郎
「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页
けれどもそれだけが理由ではありません、本心を云うといまが死ぬときだと思うからです。
あたしはいま身も心もよろこびと幸福でいっぱいです。あたしはあなたとめぐりあい、こんなにも愛しあうことができました。あたしも身についたものをぜんぶ棄て、義理を欠き、生れた土地を去ってあなたお一人により縋りましたし、あなたもあたしのためにお家やお名を忘れ、なにもかも棄てて下さいました。
――あたしの心にもからだにも、あなたの愛情がまだ火のように熱く燃えています。あたしは人が三度生れて来たよりもよけいに生き、もっと深いよろこびと幸福を味わいました。あたしはいま、――こんなにも強く愛しあった人がほかにいますか、と叫びたいような気持です。この幸福な、燃えるようなよろこびが消えないうちに死にます。かがみを黙って頂きますが、これをあなただと思って、いっしょに抱いてゆきたいのです、どうかおゆるし下さい。
――ああけいさま、あたしが死んでゆくいま、どんなにうれしく仕合せな気持でいるか、あなたにわかって頂けるでしょうか。……いまあなたはよく眠っていらっしゃる、観音寺の鐘が二時をうちました。