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ばらとみこ
薔薇と巫女
小川 未明
「早稲田文學」1911(明治44)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,174 字 · 15 页
「鳥よ、もっと喧ましく啼き立てておくれ。妾の足音が聞えぬように。
鳥よ、鳥よ、けれどあんまり啼き立てて家の人の眼を醒してくれては厭だよ。」
と言った。而してその姿は、何処にか消え失せてしまった。
その夜に限ってこの利巧な老人は、決して油断したのでない。また安心して居眠りしたのでもない。彼は常の如く落付いて門を見張っていた。しかしなぜ娘の足音を聞き付けなかったろうか。必ず聞き付けたに相違ない。けれどこの足音を犬の足音と聞違えたのかも知れなかった。また立騒ぐ小鳥の翼の音と聞違えたのかも知れなかった。気まぐれに森を離れて飛び来った小鳥が門の前を過ぎたのかとも思ったのであろう……。
その娘は、なんでも諸国を巫女になって歩いているといい、また、家に連れ帰されて座敷牢の中に入れられてあるともいう。何れにせよXの町のこの豪家には、必ず老人の番人がいるに相違ない。而して誰が訪ねて行くとも決してその大きな青い門から中へ入れない。いかなる強情な人でも、この老人の智識あることに怖れて、その命令に背いて入るものがないということだ……。
と、或る老婆は語って聞かせたのであった。