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ばらとみこ
薔薇と巫女
小川 未明
「早稲田文學」1911(明治44)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,174 字 · 15 页
その時、彼は心のうちで年若い巫女のことをいうのであろうと思った。何となれば巫女は、奇蹟を行って人を驚かしたからだ。彼はその様な女を見たいと思った。而してその様な女に愛されたいと思った。この好奇心は、彼を臆せずに秘密の門の中に導いた。ただ巫女の黒い大きな瞳で眤と見詰められたい。魔女の手に抱かれて、その鳶色の縮れた長い頭髪の下に顔を埋めたい。而して紅い頬と熱い唇に触れて見たいと胸の血潮が躍った。
彼は、百人の普通の人に愛せられなくても、異常な力を持った悪魔に可愛がられたならば、もはや、自身はこの世に於て孤独な人でない。
微かな細い道は、奥の方へ縷々としてつづいている。いつこの道を人が歩いたか、余程久しい前から、足跡が絶えたと見える。草が生えて、全く道を消そうとしていた。
独りとぼとぼと月の光りを頼りに覚束なげな道を辿った。天地は寂然として、草木も息を潜めている。ただ青い輝く月光が雨のように降って来るのを眺めた。月光はすべての森や林を神秘の色に染めている。彼は遂に道の消えた処まで歩いて来た。其処には大きな礎石があった。古い大きな建物のあった跡であった。