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らん
蘭
山本 周五郎
「家の光」1948(昭和23)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,247 字 · 21 页
「……それで、つまり貴公は申しわけの使者というわけか」
「そうではない。黒沢のかわりだ」
「なに、かわりだと……では貴公がおれと果し合いをするつもりか」
「そのとおりだ」生之助は身じたくをしながらうなずいた。「……黒沢は勝山藩に欠けてならぬ人間だ。おれは、かれと幼少のころからいっしょに成長して来て、かれがどのような人物か、だれより、よく知っている。どちらかが死ぬとすれば、かれではなくて、このおれだ。これは友情ではない。勝山藩百年のためだ」
「おれは平三郎に果し状をつけたのだ。貴公との立ち合いはことわると云ったら、どうする」
「そんなことは、ありえないさ」
生之助はすでにはかまのももだちをとり、覆い物をぬいでいた。
「……なぜなら、そこもとが承知するしないにはかかわらない。おれは脇屋藤六を切る」
「と、と、と」こう叫んで藤六は二三間うしろへとびすさった。かれの面上には火がついたように闘志が燃え、双眸がにわかに殺伐な光を放ちだした。「……こいつは本気だ。こいつは骨がある。よし、相手になってやろう、抜け」
生之助は右足のつま先でとんとんと地面をたたき、しずかに刀を抜いた。