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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

彼女の父親を、蠅男から護ろうと努力していながら、遂に蠅男のためにしてやられ、糸子を孤児にしてしまった。その責任の一半は、帆村自身にあるように思って、彼はこの上は、自分の生命にかけて蠅男を探しだすと共に、糸子を救いださねばならないと決心しているのだった。

暗い山路を縫って、約一時間のちに自動車は宝塚に帰ってきた。

そこで長吉は、西の宮ゆきの電車に乗りかえて、駐在所から貰った証明書を大事にポケットに入れたまま、帆村に別れをつげて帰っていった。帆村はこの少年のために、そのうち主家を訪ねて弁明をすることを約束した。

ホテルでは、愕き顔に帆村を迎えた。

なにしろ朝方ドテラ姿でブラリと散歩に出かけたこの客人が、昼食にも晩餐にも顔を見せず、夜更けて、しかも見違えるように憔悴して帰ってきたのだから。

「えろうごゆっくりでしたな、お案じ申しとりました。へへへ」

「いや、全く思わないところまで遠っ走りしたものでネ、なにしろ知合いに会ったものだから」

「はアはア、そうでっか、お惚け筋で、へへへ、どちらまで行きはりました」

「ウフン。大分遠方だ。……部屋の鍵を呉れたまえ」

「はア、これだす」