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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

もし蠅男があの場合、大胆にもすぐに宝塚へ引きかえしたとしたら、午後三時半にはゆっくりこのホテルに入れる筈である。なにしろ午後にホテルについた唯一の人物であるから、よく調べなければ承知できない。

「これはどんな風体の客人ですか」

と、帆村は帳場にたずねた。

「そうですなア、とにかく顔の青い大きな色眼鏡をかけた人だす。風邪ひいとる云うてだしたが、引きずるようなブカブカの長いオーバーを着て、襟を立ててブルブル慄えていました。そして黒革の手袋をはめたまま、井上一夫、三十三歳と左手で書っきょりました」

帆村は呻った。色眼鏡に長い外套、そして襟を立ててブルブル慄えている顔色の青い男だというのである。それはたしかに怪しい人物だ。

「なにか荷物を持っていなかった?」

「さよう、持っていましたな。大きなトランクだす。洋行する人が持って歩くあの重いやつでしたな。自動車から下ろすときも、ボーイたちを叱りつけて、ソッと三階へ持ってあがりましたがな」

「ほう、大きなトランク?」

帆村はハッと息をのんだ。

「そいつだ。そいつに違いない。その井上氏の部屋に案内して呉れたまえ」

蠅男の奇略