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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「うわッ、はッはッ」

と、蠅男は附け髯のなかから哄笑した。

「手前こそ、今度こそは本当に念仏を唱えるがいい。この室から一歩でも出てみろ。そのときは、手前の首は胴についていないぞ」

蠅男は、大蟹のような右手の鋭い鋏をふりかざして恐れ気もなく帆村に迫ってきた。

今や竜虎の闘いである。悪竜が勝つか、それとも侠虎が勝つか。生憎と場所は敵の密室中である。部屋の入口には鍵が懸っていた。

落ちた仮面

「此奴がッ――」

ドドンと帆村は敢然引き金を引いた。今や危急存亡の秋だった……

「うわッはッはッ」

人を喰った笑い声もろともアーラ不思議、蠅男の身体がドーンと床の上に仆れるが早いか、ガチャガチャと金属の摺れあう音がして、蠅男の胴と手足がバラバラになった。

「呀ッ!」

と帆村の逡ぐ前に、バラバラになった蠅男の五体は、まるでその一つ一つが独立した生き物のように、物凄い勢いでクルクルと床上を匍いまわり、次第次第に帆村の身近く迫ってくるのであった。勇猛な帆村探偵も、この勝手のちがった相手の攻勢に遭って、手の出し様がなかった。クルクル廻る蠅男の首を狙うべきか、脚を抑えるべきか。