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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「帆村はん。これだけは誓うとくれやす。必要以上に、危険なことをしやはらへんことと、それからもう一つは、――」

「それからもう一つは?」

「それからもう一つはなア、一日に一度だけは、うちへ電話をかけとくんなはらんか。そうしたら、うち安心れて睡られます。よろしまんな」

「はッはッ、まるで坊やとのお約束みたいですが、たしかに承知しました。ではこれで、僕はかえります」

「あら、もう帰ってだすの。まあ、気の早い人だんな。いま貴郎のお好きな宇治羊羹を松が切っとりまんがな。拝みまっさかい、どうぞもう一遍だけ、お蒲団の上へ坐って頂戴な」

糸子は、真剣な顔をして、いっかな帆村を帰そうとはしなかった。

帆村は予定どおり、夜の闇にまぎれて、浮浪者姿で天王寺公園に入りこんだ。

「こらッ、お前なんや?」

乾からびた葡萄棚の下に跼ったとき、ロハ台に寝ていた男がムクムクと起きあがって、帆村に剣突をくわせた。

「ああ、おらあ新入りなんだ。こっちの親分さんに紹介してくれりゃ、失礼ながらこいつをお礼にお前さんにあげるぜ」

「な、なんやと。お前、東京者やな。おれに何を呉れるちゅうのや」

帆村は五十銭玉を掌の上にのせてみせた。