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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

かの男は、たちまち恵比寿顔になって、いやに帆村の機嫌をとりだした。

「ふーン、わしに委しといたらええねン。大丈夫やがナ。親分の名は藤三いうのや。紹介したる、さあ一緒についてこい」

楢平という男の案内で、帆村は藤三親分の配下に臨時に加えて貰うことになった。

彼はここでも、いささか金を親分に献上することを忘れなかった。

「あんまりパッパッと金を使うのはあかんぜ」

と、早速親分らしい注意をした。

「へえ、相済みませんです」

それから藤三親分は、帆村にいろいろと仲間の習慣の話や、縄ばりのこと、持ち場などについて、こまごました注意を与えたのち、

「さあ、これは今夜の、わしからの引出物や。これを一枚、お前にやる」

と云って、一枚の紙札をくれた。

帆村が何だろうと思ってみると、それは新別府温泉プールと書いた一枚の入浴券であった。

「へえ、どうもこれは、――」

「今夜入ってきたらええやないか。そこは十日ほど前に建った大浴場兼娯楽場や。もちろんぬかりはあらへんやろが、わし等の行く時間は、午後十二時を廻ってからでやぜ。忘れんようにな。楢平にも、これを一枚やる」

親分は二枚の入浴券を下された。