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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「なにッ」と署長は目をみはり、「おおそれが蠅男か。想像していたよりも物凄いやっちゃア。待っとれ。いま皆におさえさせる。そオれ、掛れッ」

署長がサッと手をあげると、警官たちは靴のままプールの中にザブンと飛びこんできた。

「オヤ、――」

と近づいた警官が愕きの声をあげた。

「蠅男は死んどりまっせ」

「ええッ、――」

「こっちへ取りまっさかい、帆村はん、手を放してもよろしまっせ」

「そオれ、――」

警官隊の手にとって抱きとられた怪人蠅男の肉塊は、蒟蒻のようにグニャリとしていた。そして口から頤にかけて、赤い糸のようなものがスーッと跡をひいていた。血だ、血だ!

「舌を噛みよったな。ええ覚悟や」

と、いつの間に来ていたのか、正木署長が沈痛な声でいった。

「ああ、とうとう蠅男は死にましたか」

そういった帆村は、はりつめた気が一度にゆるむのを感じた。

「おッ、危い。どうしなはった、帆村はん」

鬼神のように猛き帆村だったけれど、蠅男の自殺を目のあたりに見た途端、激しい衝動のために、遂に意識をうしなって、警官たちの腕の中に仆れてしまった。

「無理もない。蠅男と、徹頭徹尾闘ったのやからなア」