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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

彼は寝不足の充血した目をこすりながら、起きあがった。そして丹前を羽織ると、縁側に出て、雨戸をガラガラと開いた。とたんに彼は、狆のように顔をしかめて、

「おう、臭い。へんな臭いがする」

と吐きだすように云った。

前の往来で、臭評定をしていた近所のうるさ方一同は、突然ガラガラと開いた雨戸の音に愕いて、ハッとお喋りを中止したが、帆村が自分たちと同じように鼻をクンクンいわせているのを見上げるや、一せいにニヤニヤ笑いだした。

「お客さん。怪ったいな臭がしとりますやろ」

「おう。これは何処でやっているのかネ。ひどいネ」

「さあ何処やろかしらんいうて、いま相談してまんねけれど、ハッキリ何処やら分らしめへん。――お客さん、これ何の臭や、分ってですか」

「さあ、こいつは――」

とはいったが、帆村はあとの言葉をそのまま嚥みこんだ。そして彼は帯を締めなおすと、トントンと階段を下りて、玄関から外に出た。

「えらい早うまんな。お散歩どすか」

奥から飛んで出てきた仲働きのお手伝いさんが、慌てて宿屋の焼印のある下駄を踏石の上に揃えた。

「ああ、この辺はいつもこんな臭いがするところなのかネ」