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けつえきがたさつじんじけん
血液型殺人事件
甲賀 三郎
「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年6、7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,256 字 · 71 页
然し、もし私が次の出来事に遭遇しなかったなら、私も結局はやはり世間一般の人と同様、毛沼博士の事は忘れるともなく忘れて終ったろう。然し、運命はそれを許さなかった。私は一層苦しまなければならないようになったのだ。
毛沼博士の死後半月ばかりだったと思う。私はいつもの通り笠神博士の宅を訪ねた。
前にも述べた通り、私達二人の親密の度は一回毎に加速度を以て増して行った。それはむしろ先生の方から積極的に近づいて来られるのだった。無論私も親しくすればするほど、先生の慈愛深い点や、正直一方の所や、いろいろの美点を認めて、敬愛の念を深めて行ったけれども、終いには先生が教えるというよりは、恰で親身のようになって、而も私がもし離れでもしたら大変だというようにして、自ら屈してまで機嫌をとられるのが、はっきり分るほどになった。それが毛沼博士の死以来益々激しくなって、それは恰で恋人に対するような態度だった。私は内心うす気味悪くさえ感じたのだった。
さて、その日はいつもの通り、いろいろ話合った末、晩餐の御馳走にまでなったが――この時は夫人も一緒だった。之も一つの不思議で、世間に噂を立てられたほど、夫人によそよそしかった先生が、この頃では次第に態度を変えられて、夫人にも大へん優しく親切にされるようになっていた。