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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

いまはその一件を語るのが目的ですから、小夜子サンとセラダのことはやがて章を改めて語ることに致します。

小夜子サンとセラダが死に損ったということは新聞の夕刊に小さく出ていたので判りました。トオサンはとる物もとりあえずというていたらくでカッポウ着をかなぐりすてて熱海直行ということになりましたが、そのとき店に来合せていたのが日野と八千代サンでして、

「じゃア、ぼくも行きます」

「私も」

この二人がどういう反射運動か、その気になって立上ったものですから、トオサンも考えてるヒマがありません。

「ウン」

と答えて三人一しょに熱海めざしてまッしぐらです。しかし、もともと小夜子サンとセラダが死に損ったことについて日野と八千代サンまでが熱海へ駈けつける必要はないのですから、トオサンも熱海へ近づいたじぶんから弱りだして、

「お前さんたち、なんだってノコノコついてきたんだい」

「イヤだな、切符買ってくれたくせに」

「仕様がねえなア、来ることもないくせに」

「トオサンが慌てすぎるから、こッちもつりこまれちゃったらしいや」

仕方がないから、トオサンは二人を適当な旅館へあずけて、自分だけ小夜子サンの病床へ駈けつけて一晩看病しました。