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にしおぎずいひつ

西荻随筆

坂口 安吾

「文学界 第一巻第一号」1949(昭和24)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,343 字 · 7 页

青空文庫

けれども、バーテンも案に相違、好人物の中年男で、今に女給が帰ってきますから、と僕をかけさせて、コーヒーを持ってきた。そこへドヤ/\と女給の一群が戻ってきた。そうだろうさ、手紙にも、女給一同より、と書いてあったのだからネ。

女給の中から、代表が現れて、進みでた。この女給が、手紙を書いた女給であった。二階でビールを一本のんで、この女給から、アンゴ氏の話をきいた。

アンゴ氏は四十二三の小男で、メガネをかけていたそうだ。似ていますか、ときいたら、いゝえ、全然。アンゴ氏は、大へんお金持だったそうで、やっぱり偉いのである。

去年の六月から現れた。つまり、太宰事件の直後らしい。情痴作家という噂もなかった太宰でもあれくらいだから、悪名高いアンゴは大いにやるべきである。西荻のアンゴ氏がこう判断した心境も分らないことはない。

西荻のアンゴ氏は、ビール一本の三分の一ぐらいで赤い顔になる小量の酒のみで、それ以上は飲まず、常にもっぱら女を口説いたそうである。

一人の女給が、ニセモノを見破っていたそうだ。この女給は西荻アンゴ氏と泊りに行った。帰ってきて、あれはニセモノよ、ホンモノはふとった大男の筈よ、と云ったが、ニセモノかホンモノか追及する情熱はてんでなく、ニセモノを承知で遊んで、ほかの店へクラガエのとき、あれはニセモノよ、ともう一度