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かいせつ しゅみをつうじてのせんせい
解説 趣味を通じての先生
額田 六福
「舞台 岡本綺堂追悼号」1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,362 字 · 11 页
松の樹が嫌いだった。
「君、あれは放蕩息子だよ。」
冗談によくそんな事を云われた。誰もが知っている通り、春夏秋冬と、松の木位手入れに手数のかかる木は尠い。自然物入もかさむ。全くやっかい至極な放蕩息子だ。
が、しかし、先生が松を愛されなかったのはそう云う手数がかかるとか、物入が嵩むとか云う理由ではなかった。手入は植木屋にやらせればいいのだし、費用だって先生の懐を脅かすほどの事はないし、又必要なら何百金でも平気で投出される人だったのだ。それについて詳しい説明をきいた事はなかったが、あのゴツゴツした、骨ばった木ぶりが嫌いであったらしい。とにかく庭にも盆栽にも松は一本もなかった。
お花見と云う行事は大すきだった。しかし、同じ様な理由で桜の木も木としては好きでなかった。私が麹町にいた時代、よく散歩のお供をして英国大使館前をぶらついたが、あの桜並木を見て、
「もう少し木肌が滑かだといいんだがなあ。」
と云われたのを思い出す。
同じ様な意味で梅もそう好きではなかったらしい。けれど、初春の縁起物として盆梅は(殊に紅梅)賞玩された。しかし、花時がすむと、きまって庭の片隅にほうり出されて、大部分はそのままに枯れて仕舞い、残った物も、翌年にはもう花をつける事が出来なかった。