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なぞのおんな

謎の女

平林 初之輔

「新青年 第一三巻第一号」1932(昭和7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,077 字 · 18 页

青空文庫

車を降りてからも、沈黙がつづいた。

二人は、二三歩間隔をおいて、梅林の中を歩いた。

「ちょうど盛りですね」

龍之介は話の緒口をきってみた。

「そうですわね」

答えはそれっきりだった。

龍之介は不思議な女だと思った。大抵の女なら、別に美しいと思わないでもこうした場合に、「まあ素敵ですね」とか何とか仰山な言葉をつかうものだ。それだのに、この女は、何か用事でもあって、東京の場末の町でも歩いているときのように無感激なのだ。

「ちょっとおやすみにならなくって?」

十分間ほどで、梅林をあらかた一巡してしまってから、山野さんは一つのベンチのそばへ辿りついて言った。

「休みましょう、お疲れになったでしょう?」

龍之介はハンカチを出して、ベンチの塵をはらって、席をすすめた。

「どうもすみません」

彼女はぐたりと腰をかけた。龍之介も並んで腰をかけた。親子の犬がすぐそばの日向でじゃれついていた。

「ねえ島さん、あたしたちがこうしているところは何と見えるでしょう?」

不意に彼女はこんな質問をした。

「そうですね」龍之介はちょっときまりが悪いので口籠った。

「やっぱりお友達と見えやしないでしょうか? 夫婦や兄弟にしちゃ、他人行儀すぎるし、恋人同士にしちゃ年をとりすぎているし……」