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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

しかもこんなに急に、こんなに気味悪く……。

一昨日(おととい)まで私は善馬鹿が歩いているのを見ていた。

ついこないだまでは、「お早う。今日は工合はどう?」と新さんに挨拶していたのに、その新さんはもう死んで冷たくかたくなって、直ぐ埋められてしまおうとしている。――

私は、どんなに辛くともいやでも、死ぬなどということは思ってもみない、また思いようないこのごろの生活を考えた。

広い世の中では一日に幾人人が死んで行くだろう? 十人死に、百人死に、千人死んでいるかもしれない。が、その中に私は生きている。しかもこうやって達者で、することも沢山あり可愛がられて生きている。

私には総て消極的な考えが出来ない。

私はどんなに困ったことに会っても――もちろん私の狭い天地で湧いたり消えたりすることは何でもない下らないことなのだろうけれども――どうにかやってしまう。

死のうと思うより先ずどうして突き抜けようかと思う。そして、私は自分の頭の乾(ひ)からび鈍くなり、もうほんとうに生きている意味がなくなるまでは、どんなにしてでも生き抜こうと思って、思い定めているのである。それ故私は、昔の婦人達のようにすぐ命を捨てることは、どんなにしても出来ない。