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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

にない病気を思うと、ほんとうに生きている甲斐もなくなったように感じられた。

自分がいておっかあの邪魔になるなら、今すぐからでもどこかへ行ってもしまうけれど、どうせは死ぬのも近いうちのことだろうのに、どうぞたった一度で好いから七年前に呼んでくれたように「新や!」と云ってくれたら、どんなに嬉しかろう!

新さんは、北海道で時蔵という男の所にいたとき、仲間の男で十九になるのが急に病(わずら)いついて、たった三日で死んだときの様子を、マザマザと思い出した。

その男は死ぬ日まで、

「阿母(おっか)さん! 阿母さん、何故来ないんだ? 俺りゃ待ってるんだぜ」

と云いながら、生れてから別れるまで、ついぞ大きな声さえ出したことのないほど優しい母親のことばっかり話していた。そして、もういよいよというときに、一度瞑(つぶ)っていた眼を大きくあけて、両手を一杯に延ばすと、

「阿母(おっか)さん!」

とはっきり叫んで、そのまんまとうとう駄目になってしまったときの、あの鋭い声、あの痩せた手が新さんの目について離れなかった。

どこの山中、野の端に野たれ死をしても、いまわの際に「おっかあ!」