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まずしきひとびとのむれ
貧しき人々の群
宮本 百合子
「中央公論」1916(大正5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页
と呼んで死ねる者は、何という幸福なことか。新さんは、真面目に自分の死ということを考えていたのである。
或る殊に暑苦しい日、朝から新さんは身動きもできないほど弱っていた。
五月蠅(うるさ)い蠅を追いながら、曇った目であてどもなく、高く高くはてもなく拡がった空を見ていると、どこからか飛び込んで来たように、自分はもう生きていられない身だということを確かにハッキリと感じた。
新さんは、妙に笑いながら、ムズムズと体を動かして顔を撫で廻しながら、
「おっかあー!」
とやさしい声で呼んだ。
裏口の水音がやんで、濡手のままおふくろは仏頂面(ぶっちょうづら)をして、
「何だあ?」
と入って来た。
「いそがしかっぺえがちょっくら坐って、話してえがんけえ? 俺れえ話しときてえことがあるんだがなあ」
「何だ? 早く云ったらええでねえけえ」
「ま、ちょっとお坐りて。ほんに俺(おい)ら話してえことがうんとある」
新さんは穏やかな愛情に満ちた眼差しで、まじまじと怒ったようなおふくろの顔をながめた。そして、静かに微笑して頭を動かした。
「なあ、おっかあ! 俺(お)らおめえに相談しとかにゃなんねえと思うことがあるんだが……」