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にせもの

贋物

葛西 善蔵

「早稲田文学」1917(大正6)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页

青空文庫

といったような手紙の中に、一円二円と継母に隠した金を入れて寄越した。

「俺もせめて二三年前に帰ってくるとよかった。そして小面倒な家族関係で揉まれていたら、今ごろはもう少し人間が悧巧になっていたかと思うけれど、何しろのっぽう一方で暮してきたんだから自分ながら始末にいけない。そこへ行くと惣治の方は俺と較べてよほど悧巧だ。あれはどんなに酔払っても俺にもそんな話はしないが、俺はこのごろになってようよう、彼がああして家を出て他郷で商売をする気になった心持が解ったよ。彼は老父たちにさえそうした疑念を抱かせないような具合にして、いつの間にかするりと家を脱けていたんだからね、よほど悧巧なところがある」

「そりゃ惣治さんの方は苦労してるからあなたとは違いますとも。だからあなたもいっそ帰ってなぞこなければよかったんですよ。どう気が変って帰ってなぞきたんでしょう。親たちがどんな生活をしてるかもご存じなしに、自分ほどえらいものはないという気でいつまでも自分の思いどおりの生活をして通した方が、あなたのためにはよかったんでしょう。……あなたの芸術というもののためにも、その方がどれほどよかったかしれないと思いますがね、私たちにはわかりませんけど」