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にせもの
贋物
葛西 善蔵
「早稲田文学」1917(大正6)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页
こればかしは、――これで往復の費用を出さねばならぬというので桐箱からとりだした蕃山の手紙は、ちょっと展げてみて、「おや……蕃山?――違うぞ」と首を傾げていたが、箱の中に入れてあった守札のような紙の字を見て、
「なあんだ、蕃山、息、――游軒か、フフフフ」
と冷笑を漏らし、不愛想な態度で奥へ引っこんでしまった。
「こんなような品は手前どもでは扱っておりませんが、どこそこなら相談になりましょう」傍に坐っていた番頭は同じ区内の何とかいう店を教えてくれたが、耕吉は廻ってみる勇気もなく、疲れきって帰ってきた。
「熊沢蕃山、息、游軒か、……よかったねえ」
編輯室の人たちも耕吉の話を聞いて、笑いはやした。
「熊沢蕃山という人のことなら僕らにもちっとは当りがつくが、その息子の先生と来てはさっぱり分っちょらんがな、何事をやった人物かい? どんなことをして生きていた人物かいっこうわからんじゃないか。そもそもまたそんな人物の手紙を麗々と仕立てて掛けておくという心懸けのほどが、僕には解らんねえ」芳本はくりくりした美しい眼を皮肉らしく輝かして言った。
「息游軒おるかい?」
芳本の仕事に出た後で、耕吉は寝転んで本など読んでいると、訪ねてきた友人たちがこう言ってはいってくるようになった。