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あかいろうそくとにんぎょ
赤い蝋燭と人魚
小川 未明
「東京朝日新聞」1921(大正10)年2月16日~20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,570 字 · 14 页
そして、泣いて、年より夫婦に願ったのであります。
「妾は、どんなにも働きますから、どうぞ知らない南の国へ売られて行くことを許して下さいまし」と、言いました。
しかし、もはや、鬼のような心持になってしまった年より夫婦は何といっても娘の言うことを聞き入れませんでした。
娘は、室の裡に閉じこもって、一心に蝋燭の絵を描ていました。しかし年より夫婦はそれを見ても、いじらしいとも哀れとも思わなかったのであります。
月の明るい晩のことであります。娘は、独り波の音を聞きながら、身の行末を思うて悲しんでいました。波の音を聞いていると、何となく遠くの方で、自分を呼んでいるものがあるような気がしましたので、窓から、外を覗いて見ました。けれど、ただ青い青い海の上に月の光りが、はてしなく照らしているばかりでありました。
娘は、また、坐って、蝋燭に絵を描いていました。するとこの時、表の方が騒がしかったのです。いつかの香具師が、いよいよその夜娘を連れに来たのです。大きな鉄格子のはまった四角な箱を車に乗せて来ました。その箱の中には、曾て虎や、獅子や、豹などを入れたことがあるのです。