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あかいろうそくとにんぎょ
赤い蝋燭と人魚
小川 未明
「東京朝日新聞」1921(大正10)年2月16日~20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,570 字 · 14 页
香具師は、何処から聞き込んで来ましたか、または、いつ娘の姿を見て、ほんとうの人間ではない、実に世にも珍らしい人魚であることを見抜きましたか、ある日のことこっそりと年より夫婦の処へやって来て、娘には分らないように、大金を出すから、その人魚を売ってはくれないかと申したのであります。
年より夫婦は、最初のうちは、この娘は、神様のお授けだから、どうして売ることが出来よう。そんなことをしたら罰が当ると言って承知をしませんでした。香具師は一度、二度断られてもこりずに、またやって来ました。そして年より夫婦に向って、
「昔から人魚は、不吉なものとしてある。今のうちに手許から離さないと、きっと悪いことがある」と、誠しやかに申したのであります。
年より夫婦は、ついに香具師の言うことを信じてしまいました。それに大金になりますので、つい金に心を奪われて、娘を香具師に売ることに約束をきめてしまったのであります。
香具師は、大そう喜んで帰りました。いずれそのうちに、娘を受取りに来ると言いました。
この話を娘が知った時どんなに驚いたでありましょう。内気な、やさしい娘は、この家を離れて幾百里も遠い知らない熱い南の国に行くことを怖れました。