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あしがるほうこう

足軽奉公

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页

青空文庫

七

七

障子の内は二十畳敷ほどの広間だった。煌々と燭台を列ね、十四五人の侍臣侍女にとり巻かれて、忠秋はいま大盃をあげているところだ、そのすぐ傍らに妹の汀がいるのをすばやく認めた藤六は、

「妹を頂戴にまいった、御免!」

そう叫んで踏込もうとする、突然のことで侍臣たちが総立ちになるのを、忠秋は手で制し、

「……待ち兼ねたぞ藤六」

と、よく徹る声で叫んだ、

「もう来る頃と痺をきらしていた、よく来たな、そのほうに会いたいと申す者がおる、まあ下にいろ」

「会いたいというのはおれだよ右田」

そう云いながら、汀の横からすっと立った者があった。

「……まさか忘れはすまい、横井鉄之助だ」

藤六はあっと云った。立上ったのは正しく横井鉄之助である、夢ではないか、――あまりに思いがけなかったので、藤六はすぐには声が出なかった。

「ずいぶん捜したぞ」

鉄之助は鋭い眼でひたとこちらを睨みながら云った。

「……めぐり逢えたのは武神の加護だろう、貴公には借りがある、それを返そうと思ってな」

「念の入ったことだ」

藤六ははじめて口をひらいた。

「……望みなら返して貰おう、いつどこで……」

「暴れ者の忠秋さまも御所望だ、お庭さきを貸すと仰しゃる、どなたか拙者の槍を、お持ち下さい、出よう右田」