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あしがるほうこう
足軽奉公
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页
二
当日は矢来を結い、幕を張り、諸士の接待をするのが役で、あとは黙って勝負を見ていなければならなかった。――卵を産みそうな腰つき、などと酷評をするのは、かれらにとって口惜しさをまぎらわす僅かな捌けぐちだったのである。
その日の「大試合」が終ったのは午後三時であった。役目を済ませて、藤六が長屋へ帰って来ると、妹の汀が買物に出ようとするところだった、珍しく髪を結いあげているせいか、ちょっと眼を瞠りたいくらい美しくみえる。
「どうしたのだ、髪などあげて……」
「お祝い日ではございませんか」
汀は却って兄の迂濶におどろいた。
「……お忘れなさいましたの、今日は五日でございますよ」
「ああそうか、大試合のごたごたでど忘れをしていた」
藤六はそう云いかけて、
「……すると鉄之助どのも忘れているかも知れないな、ちょっと案内をして来ようか」
「そのほうがお宜しゅうございますわ、わたくしもまだ買物がございますから」
ではちょっといって来ると云って、藤六はそのままひき返していった。
二
毎月五日は右田家の祝い日になっていた。それは藤六が二十歳のとき足軽小頭を命ぜられた日で、以来ずっと欠かさずに続けている。