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うんめいのままに

運命のままに

豊島 与志雄

「黒潮 第壹卷第貳号」太陽通信社、1916(大正5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,406 字 · 57 页

青空文庫

」

「心がはっきりしてくるのはいいことでしょう。」

「ええ、でも余りはっきりすると嫌ですもの。少しはぼんやりしてた方が若い者にはいいって、兄なんかもそう申しますわ。頭に中毒するといけない、どうせ碌な考えは出やしないんだからって……。」

私は静子がそれを皮肉で云っているのか、本気で信じて云っているのか、一寸見当がつかなかった。一体彼女のうちには真実と嘘との見境いが私にはつかなかった。

「それはそうかも知れません。」と私は答えた。

「ええ?」と云って静子は一寸顔を上げたが、それきり黙ってしまった。

そういう時英子がやって来るといつも笑顔をしてこんなことを云った。

「まただんまりが初まったのね。」

私はただ苦笑するより外仕方がなかった。

然しそういうことが度重なるにつれて、英子の心が私から遠ざかってゆくのを私は感じた。一人でけば※(「足へん+宛」、第3水準1-92-36)くほど憂鬱な影が私の心に沈んできた。私は英子からの古い手紙を引き出して読んでみたり、新らしい手紙を幾度もくり返して読んでみたりして、彼女の真実の心の跡を辿ろうとした。然し私は最近のものになるに従って、彼女の手紙の文句が著しく私の使用する文句に似通っていることを見出した。