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うんめいのままに

運命のままに

豊島 与志雄

「黒潮 第壹卷第貳号」太陽通信社、1916(大正5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,406 字 · 57 页

青空文庫

いい加減に疲れた頃私達は歌留多を止した。そして皆で菓子や蜜柑をつまみながらまた会話を続けた。英子は始終欽一郎を上からおっ被せるような口の利き方をした。そして私の耳には、「また英子さんのチラニーが初まった。」という男の声が残っていた。

英子の家から出たのは十一時近くであった。私は橋本兄妹と連れ立って淋しい通りを神楽坂下まで歩いて来た。

「そのうち私共のうちで歌留多会をやりますから、是非いらして下さい。」と欽一郎は私に云った。

「え有難う。」と私は答えた。

「ああいう遊びは呑気にやっていると、やりいいものですね。」

「ええ。」

「私は何時も平安朝時代は生活が気楽で楽しかったろうとよく思います。此頃のように頭ばかりがいやに緊張した生活をしていると、却って人間が愚かになるような気がしますが。」

「そうかも知れません。ですが自覚は何処までも必要だと私は思っています。」

「ええそう云う努力はごく必要でしょうな。」

私達はそれきり口を噤んだ。そして私は別れを告げて神楽坂下から電車に乗った。静子が電車の中の私に軽く頭を下げたのを、私はちらと眺めた。

下宿に帰ると私は急に不快な疲労を覚えた。