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うんめいのままに
運命のままに
豊島 与志雄
「黒潮 第壹卷第貳号」太陽通信社、1916(大正5)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,406 字 · 57 页
英子は黙って私をそこまで送って来た。
「あなたの心が向く時、是非私にお手紙を下さい。」と私は云った。
「ええ。」と英子は答えた。
空が陰鬱に曇っていた。寒い空気が私の熱した頬を流れた。私は外套の襟を立てながら、街燈の灯を見つめて歩いた。然し電車に乗ると、殆んど家に帰るまで眼を閉じていた。
私は今はもうただ自分自身の心を一人で見つめながら生きてゆくより外ないと思った。私が信頼していたもの、はっきり掴んだと信じていたもの、それはただ空漠たる自分の気持ちに過ぎなかった。然し私は力強かれと自分に叫んだ。苦しみは私の成長を助けてくれるであろうと思った。が心の底で私は猶、英子を信ずると誓っていた。もし私達の運命が一つになるべきものなら、いつかはまた英子は私の胸に帰って来るであろう。然し私は英子の心を掠奪することは出来ない。退いて自分の心のみに忠なるのが、最もよく自分の運命に忠なる道である。そう思いながらも私は泣きたいような気分が込み上げてきて、眼が眩むように覚えた。
下宿に帰ると女中が一通の手紙を私に渡した。
「お出かけになると間もなく俥屋が持って来ましたから、お預りして置きました。