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うんめいのままに

運命のままに

豊島 与志雄

「黒潮 第壹卷第貳号」太陽通信社、1916(大正5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,406 字 · 57 页

青空文庫

そして欽一郎もそれ位のことは知っているに違いないと思った。

私は自分の為すべきものが、もう何にも残っていないような気がした。誰も私にもう用はないのだというような気がした。そして私はもう英子の家に行くまいと思った。そう思っていると私の心にある巧みな計略の羂が見えて来た。凡てが私のために張られた羂であったかも知れないと私は思った。然し私の心に映ったものは、英子も欽一郎も静子も春子さんも、また私自身も、その羂の外に別々に立っていた。只何処から来たとも知れないその羂の姿が私の憂鬱な気分にしつこく絡みついたのである。

其後陰鬱な日が明けてはまた暮れていった。物を忘れたようなぼんやりした気分が私に続いた。英子の所からも誰からも、何の便りも無かった。都会の中に在りながら、私は遠く社会を離れて徒らに生き存らえているような気がした。そして何処とも知れぬ重苦しい羂の姿が私の身のまわりを取巻いた。

そういう憂鬱な気分に浸っている時であった、私がお島から手紙を受取ったのは。

手紙は下総佐原から来たのであった。浜の屋千代こと河田しまとしてあった。初めにあの晩のことが長いお礼の文句で認めてあった。