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うんめいのままに

運命のままに

豊島 与志雄

「黒潮 第壹卷第貳号」太陽通信社、1916(大正5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,406 字 · 57 页

青空文庫

私にはその二人の気持ちがはっきり分るように思えます。」

「あなたもそんな場合にはそうなさるの。」

「多分そうするでしょう。私には女を強いる力はありませんから。私には他人の運命を支配することは出来ない。」

私は我知らず眼に涙を一杯ためていた。

英子は一寸顔を引きしめたが、そのまま堅くなって動かなかった。彼女は両手を握り合せたままじっとしている。温い息もと絶えたような冷たいものを私ははっきり彼女のうちに感ずることが出来たのである。

その冷酷な或物だ、私がよく彼女のうちに眼覚めるのを感じて震えたのは。私の心が本当に深い愛のうちに沈潜していって興奮する時、私は屡々彼女のこの冷酷なものに裏切らるるのを知っている。私はまだ彼女のこの冷酷な或物の底から焼くが如き熱を導き出す術を知らなかったのである。そして特に自然のうちに在る時の彼女の激しい passion の動揺を知っていた私は……。

と云うのは、時々二人で郊外の自然のうちを歩くことがあったから。

煤煙と塵埃と人間とに濁った都会の空気を離れて、山の手線の電車の軽い動揺にゆられ、やがてうち開けた郊外のうちに自分達二人を見出す時、私はどんなにか愛の祝福を感じたことであろう。