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へんろ

遍路

斎藤 茂吉

「時事新報」1928(昭和3)年2月10日~13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,864 字 · 6 页

青空文庫

彼は驚き心を決して二たび遍路の身になってしまった。そして既に数年を経た。きょうは小口の宿を立って熊野の方へ越えようとしているのだと、こういうのであった。

彼はそういう事を事こまかに大阪弁で話した。しかし僕は大阪弁を写生することが得手でないから、そのまま書くことが出来ない。

遍路は、けれども現在の状態に安住してはいなかった。若い身空を働きもせず、現世の慾望をも満たそうともせずにいることが残念でならなかった。彼は「いまいましい」という言葉を使った。T君は遍路に五十銭くれたが遠慮をしながら丁寧にそれをしまった。それから遍路はM君のくれた紙巻煙草を一本その場で吸った。

僕らは遍路をそこに残して一足先に出発した。一山巡って、も一つ山にさしかかろうとする頃うしろの方で鈴の音が幽かに聞こえていた。

「奴も歩き出したね」

「あの奴なかなか面白いね。ぷりぷりいっているところなんか面白いじゃないですか」

「いまいましいなんていいましたね」

「いまいましくても、遁世の実行家だね。あれだけの生活は加特利教徒の労働者なんかでは出来ないよ」

「強いられた実行なんですね」

「そうかも知れない。