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みちづれ
道連
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页
が話というのはその薬のことじゃない。
母はその薬を買いに一人で行ったのだが、父が病気で寝てるし、誰にも内密なものだから、どうしても日帰りに帰って来なければならなかったらしい。それで何かの口実を設けて、夜中の二時か三時頃に出かけていった。夜中の二時か三時と云えば、丁度丑時参りの時刻じゃないか。実際その時母は、丑時参りでもするような甲斐甲斐しい気持だったに違いない。
村から鉄道の駅まで行く四里の田舎道は、どんな処を通っていたのか僕は今覚えていない。がただ、村から半里ばかり行った所に、長い長い堤防があって、両方から一丈余の葦が生い茂ってる中を、どうしても通りぬけなければならなかったことだけを、僕ははっきり覚えている。なぜかって、僕はその先まで母について行ったのだから。
母がどうして其処まで僕を連れていってくれたかは、今はっきりしていないが、兎に角僕は馳けるようにして、母の側にくっついて歩いていった。夏のことで、もう東が白むのに間もあるまいというので提灯もつけずにいた。空が綺麗に晴れて、星が一杯散らばっていて、暗い中にぼーっとした星明りだった。母は着物の裾を端折って、脚半に草履ばきのいでたちで、黙ってすたすたと歩いてゆく。