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みちづれ

道連

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页

青空文庫

そして一度も僕の手を引いてくれない。それでも僕は不平でなかった。父の薬を買いに、母と一緒にこうして夜道をする、というそのことだけで胸が一杯だった。

「お母さん、もっと早く行こうよ、もっと早く……。」

「そう急がないでもええ。夜中から出て来たから……。」

僕達は長い堤防にさしかかっていた。両方に高く生い茂ってる葦の葉が、道の上に垂れかかって、丁度隧道のようになっていた。所々に蜘蛛の糸が引張られていて、それが顔にかかって気味悪かった。葉末の露が着物の袖を濡らした。それでも不思議なことには、葦の葉を押し分けて通ってるのに、かさともさらりとも葉擦れの音がしなかった。しいんとしたそして爽かな夜で、葦の葉の隧道の天井の少し開いてる所から、きらきら輝いてる星が見えていた。

「随分長い堤ですねえ。」

「ああ長いよ。」

それっきり母はまた黙って歩いてゆく。僕も後れまいと足を早めた。がいくら行っても同じ堤防で、なかなか向うまで出られそうになかった。こんな所にぐずぐずしているうちに、夜が明けてしまやすまいかと、僕は気が気でなくなってきた。昔は追剥が出たと聞いたことのあるようなその堤防に、いつまでも引っかかってたらどうなるだろう。