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せんきょさつじんじけん

選挙殺人事件

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页

青空文庫

選挙のことだし、今さら外聞がわるいから表沙汰にもしないのよ。ひどい人」

「いつごろ盗んだのですか」

「ハッキリ覚えていませんわ。あの人なら貸したが最後、返さないわよ、ウチでなんとかするでしょうから、主人に云ってみて下さいな」

「それほどの物じゃないんですよ、ただ奥さんの顔を見たから、ちょッときいてみる気になっただけさ。あの人は、いったい何者ですか。人相のわるい男でしたね」

「むかしの知り合いらしいわ。私たちの結婚前のね。どんな知り合いかよく知りませんが、よくない人よ。私の知らない頃の主人の友達なんて、なんだか気が許せない気がしてイヤなものですわ。主人まで気が許せなく見えるんですものね、その人のおかげで」

「そんなにイヤな奴でしたかね」

「私のカンなのよ。でも、ウチの者は、従業員たちも、みんな江村さんを嫌ってたわ。主人をそそのかして立候補させたのも江村さんだろうッて」

「だって、選挙の参謀でも事務長でもなかったのでしょう」

「それは悪い人は表へ出たがらないもの上。結局お金をチョロまかして逃げちゃったわ」

「だって、たった十万でしょう」

「大金じゃありませんか」

「選挙費用のうちじゃ目クサレ金ですよ。