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さけぬさんざ

避けぬ三左

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1941(昭和16)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,846 字 · 22 页

青空文庫

彼の巌のようなからだはいつも駿府の街をあるくのとおなじ歩調で、ただまっすぐに、悠々閑々といったようすでまっすぐに矢弾丸のなかを進んでゆく。大橋弥左衛門がこれを見つけた、あぶないと思ってわれ知らずあとを追った。

「三左あぶないぞ、頭が高すぎるぞ」

「…………」

「身を伏せろ、伏せてゆけ」叫びながら追いついた、「このはげしい矢弾丸が見えないのか、身を捨てるにも法があるぞ、避けてゆけ」

すると三左衛門がふりかえって叫びかえした。

「みんながそうよけてばかりいてはいくさに成りません」

山中城はその日の午の刻までに陥落した。そしてその夜、陣中で弥左衛門はこのことを榊原康政にはなした。康政は手を拍って笑った。

「そうか、そう申したか、みんなが避けてばかりいては戦にならぬ、面白いな、なんでもない言葉のように聞えるが、なかなかふかい味をもっている」

「けれども」と康政はそのあとで云った。「三左めはこの合戦で死ぬつもりかも知れぬ、よく眼をつけて犬死させるな」

「そう思召しまするか」

「そのほうから聞いた関東ご移封についてのかれの意見、あれを考えるとそう思える、よくよく眼をつけて乱暴な真似をさせるな、万一のことがあると駿府に待っているものに嘆きをみせる」