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さけみずく

酒みずく

山本 周五郎

「朝日新聞 PR版」1964(昭和39)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,665 字 · 6 页

青空文庫

「もうぎりぎりです」とか、「なにをうだうだしているんだ」とか、「どうせろくなものも書けないくせに」などと、怒っている人たちの声まで聞えるように感じられるのである。

私のかみさんは料理の名手で、特に数種の洋風料理では一流コックを凌ぐ腕前を持っている。これは私ののろけではなく、若い友人たちも認めるところであるが、――待てよ、かれらは私がうまいと云うので、単に調子を合わせているだけかもしれないぞ、などと思いながらビールをやめて、また水割りに変えるのである。

私の胃は米とは不和で、パンかコーン類かオートミールかポテトを好む。一日一度の夕食を簡単に片づけると、一時間ばかりベッドにもぐり込み、起きるとまた水割りを啜りだす。かみさんは十時か十一時に自宅へ帰るが、あとはまた独りで水割りの濃いのを啜り、睡眠剤と酔いとで眼をあいていられなくなると、ようやく寝床へもぐり込む、といったぐあいである。それで終ればいいが、夜半すぎてから訪問者があるのには閉口する。優雅なる女性が一人、ときには二人伴れで、ゆうゆうと侵入して来、電燈をつけて私の醜い寝顔を観賞し、そのけはいを感じて眼ざめると、謝罪めいたことを云って景気よく飲み始めるのだ。