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さけみずく

酒みずく

山本 周五郎

「朝日新聞 PR版」1964(昭和39)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,665 字 · 6 页

青空文庫

十月に二週間ほど酒をやめたことがあった。友人が眼の前で飲んでいても欲しくないし、水がなによりうまいこと、そしてそばのうまいことを知ってびっくりした。門馬義久から教訓されて、そばを喰べ始めてから五、六年になるだろうが、これまでは一時の腹ふさげでしかなかった。それが初めて、そばとはうまいものだということに気づいたのである。

だが、それはそれだけのはなしだ。水がうまいことにふしぎはないし、そばがうまいことも昔からわかりきっていたにちがいない。そんなことに感心しているより、仕事のほうが大事である。それにはむだな神経をころし、仕事だけにうちこむことだ。健康を保って十年生き延びるより、その半分しか生きられなくとも、仕事をするほうが大切だ。こうしてまた、酒みずくに戻ったのである。もし宮田新八郎がこれを読んだら、さぞいい気分になることだろう。いつかA社の週刊誌に「私の養生法」というのを書いたとき、宮田新八郎はまったく信じられない、という筆ぶりで「こんどは不養生法を書いたらどうだ」といってきた。したがってこの項は、充分に彼を満足させるだろうと思う。

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