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のざらし
野ざらし
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页
「聞くって、どんなことを? もうちゃんと分ってるじゃありませんか。」
勿論大概のことは分っていた。片山の知人の時枝という坑主が、片山の頼みで、佐伯昌作を事務員に使ってみようということになり、而も百五十円という破格の月給をくれて、なお本人の手腕によっては追々引立ててやるとのことだった。その炭坑は北九州でも可なり大きい方のもので、他に事務員も沢山居るから、初めは見習旁々遊んでいてもよいという、寛大すぎる条件までついていた。然しそういう余りに結構な事柄こそ、却って昌作を躊躇せしめたのである。
「然し私には、余りよい条件だから却って、変な気がするんです。」
「それは炭坑のことですもの、」と達子は訳なく云ってのけた、「百五十円やそこいら出して一人の人を遊ばしといたって、何でもないんでしょう。それに、時枝さんの方では、片山からの頼みだから、片山のお父さんへの恩返しって気持もあるのでしょうから。」
「一体、九州の直方って、どんな土地でしょう?」
「そりゃあ君、山があって、そして朱欒という大きな蜜柑が出来る処さ。」と突然禎輔は冗談のように云った。「僕も一度あの朱欒のなってる所を見たい気がするね。