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のざらし

野ざらし

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页

青空文庫

いつか時枝君が送ってくれたのなんか素敵だったよ。綿を堅めたような真白な厚い皮の中から、薄紫の実が飛出してくるんだからね。たしか君も食べたろう?」

「ええ、あいつは旨かったですね。」

「僕はね、あの種を少し庭の隅に蒔いたものさ。所が折角芽を出すと、女中が草と一緒に引っこ抜いちまった。」

「そんなことはどうだっていいじゃありませんか。」と達子は急に苛立ってきた。「行くとか行かないとか、一応の返事を時枝さんへ出しておかなければならないと、あなたはあんなに気を揉んでいらしたじゃありませんか。向うで好意から取計って下さるのを、余り長く放っておいては、ほんとに済みませんわ。……佐伯さんだってあんまり我儘よ。今晩どちらかの返事をすると約束しておいて、まだ元のままのあやふやな気持なんですもの。そんなことじゃ、いつになってもきまりっこないわよ。私いろいろ考えた上で、屹度あなたが行らっしゃるものだと思ったものだから、もうお餞別の品まで考えといたのよ。繻絆や襯衣や足袋や……そんなものまで、こうしてああしてと考えといたのよ。それなのに……。私もう知らないから、勝手になさるがいいわ。