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のざらし

野ざらし

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页

青空文庫

九州の炭坑のことと橋本沢子のことが、同じ重さで天秤の両方にぶら下っていた。一寸した心の持ちようで、その何れかがぴんとはね飛ばされることは分っていた。それが恐しかった。自分の心の持ちようによってではなく、どうにもならない実際上の事柄によって、何れかに勝利を得させたかった。

先ず九州の炭坑から……そして次に橋本沢子。

そういう決心が、「木和田五重五郎」のことで妙に沈み込みがちになるのを、彼は強いて引き立てて、片山禎輔の家へ行ってみた。けれど、玄関から勝手馴れた茶の間へ通るうちに、重苦しい憂鬱がすっかり心を鎖してくるのを、彼ははっきり感じた。

「やあ、どうしたい?」

彼の姿を見ると、片山禎輔はいつもの定り文句を機械的に口から出して、長火鉢に伏せていた少し酒気のある顔を挙げた。それから一寸眉根を曇らせた。昌作は黙って長火鉢の横手に坐ったが、禎輔が何か苛立っていること、先刻から苦しい思いに沈んでいたこと、宛も何かの中に落込んで出口を求めようとしているらしいこと、などを漠然と感じた。そしてそれが、不思議にもこの自分昌作に関係していることのような気がした。彼は次の言葉を待った。