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のざらし
野ざらし
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页
」
昌作は黙って唇をかんだ。
「まだきまらないの?」
「そんなに容易くきめられるものかね。」
「だって、つまりは分ってるじゃないの。」
「何が?」
「私ね、あなたが結局行らっしゃりはしないと思うわ。行こう行こうと思ってるうちに、やはり行かずじまいになるに違いないわ。」
昌作が黙ってるので、彼女は暫くしてつけ加えた。
「そうじゃないこと?」
「そうかも知れない。が……。」昌作は急に苛立った気持を覚えて、何かに反抗してみたくなった。そして云い出した。「行くかも知れないよ。いや、行くのが本当なんだろう。僕はぐうたらだけれど、忘恩者にはなりたくない。片山さんには非常に世話になってるんだ。年齢はそう違わないけれど、僕の第二の親とも云っていい位なんだ。中学二年の時に母を亡くして全く一人ぽっちになってからは、あらゆる面倒をみて貰ったんだからね。盛岡で、学校はしくじるし、女に……豚のような女に引っかかってどうにも身動きが取れないでいる時、片山さんはわざわざ盛岡までやって来て、僕を救い出してくれたのだ。母が亡くなる時に片山さんのお父さんに預けていた財産だって……勿論それは財産というほどのものじゃない、五六千円に過ぎないんだが、それも、僕の病気の時や、あの豚の女と手を切る時や、長い間の学費なんかに、もうずっと前から無くなってしまってる。