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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

12 悲願百両

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 页

青空文庫

おいらの気のせいってことにしておくべえ。」

夜が更けて、狭い家のなかに、斬るような寒気が、迫って来ていた。烈風は、いっそう速度をあつめて、戸外に積み上げた石を撫でる柳枝の音が、遠浪の崩れるように、おどろおどろしく聞えていた。

三人は、消えかかった炉の火を囲んで、しばらく黙りこくっていたが、やがて、日常の家事のはなしになって竜手様のことは、忘れるともなく、忘れた。

要するに、一時の座興である。

寝につくことになって、老夫婦は、二階へ上る。庄太郎は、階下の炉ばたに、自分の床を敷き出す。

竜手様は、部屋の隅の、茶箪笥の上へ置いて。

野猿梯子を上って行く惣平次へ、庄太郎が、またからかい半分に、

「父よ、おめえの床ん中に、百両の金が温まってるだろうぜ、ははははは。」

惣平次は、妙にむっつりして、にこりともせず二階へ消えた。

四

日光が、風を払って、翌朝は、けろりとした快晴だった。

藍甕をぶちまけたような大川の水が、とろっと淀んで、羽毛のような微風と、櫓音と、人を呼ぶ声とが、川面を刷いていた。

お石場にも、朝から、陽がかんかん照りつけて、捨て置きの切り石の影は、むらさきだった。