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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

野村胡堂『銭形平次捕物控(三)酒屋火事』。同一底本的分册已合并为一书。收入:銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、随筆銭形平次。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,725 字 · 298 页

青空文庫

九

九

「石田様、火急の御召しでございます」

母屋から使いの女が来たのは、それから半刻あまり後のこと。清左衛門は平次の眼に促されて、進まぬながら立上がりました。

案内知った奥――主人の居間に通ると、安倍丹之丞は先刻の勢いもどこへやら、火桶に顎を埋めるように、深々と腕を拱いて、真っ蒼になって思案に暮れておりました。

「御召しでござりましたか」

石田清左衛門、敷居際にピタリと坐ると、

「入れ、話がある」

いつにもない訴えるような眼で、丹之丞はさし招きます。

「御用とおっしゃるは」

「清左衛門、その方は知らぬか、――御墨付と短刀がない」

「えッ」

どんなに巧みに用意された言葉も、これほどは清左衛門を驚かさなかったでしょう。見ると丹之丞の後ろの用箪笥はことごとく抽斗を抜いて、いろいろの書類、骨董が、その辺一杯に取り散らしてあります。半刻あまり、丹之丞自身が調べ抜いたのでしょう。

「清左衛門、俺が悪かった。この用箪笥に仕舞い忘れてその方を苦しめたのは、忘れてくれるであろうな」

「…………」

清左衛門はうな垂れました。よくもこうぬけぬけ弁解が出来ると思うよりも、驕慢で才子肌で、人に頭などを下げた事のない丹之丞が、よくよく折れたのが気の毒でもあったのです。