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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
しかし十七日以後の日記があることは、決して彼に知らせてはならない。私は彼に云うであろう、―――「この帳面は始終あなたが盗み読みしていたのですから、隠しても仕方がありませんが、今さら見せるまでもありますまい。それでも見たいと云うのならいくらでも見て貰いますが、見れば分る通り、十六日で日記は終っているのです。あなたが病気になってからは、私は看護に忙しくて日記どころではなかったし、書くような材料もありませんでした」と。―――で、私は彼に十七日以後空白になっている日記帳を開けて見せ、彼を安心させなければならない。私が雁皮を買って来たのは、十六日までの分と、十七日以後の分と、日記帳を二冊に分けて製本し直すためなのである。………
………昼寝の時間に外出したので、帰宅後五時から一時間半ほど二階に上る。六時半に下りて来る時に、日記帳を持って下り、茶の間の用箪笥の抽出に入れておく。敏子、夕食後八時に去る。十時小池さんを二階へ行かせる。十一時、庭に音が聞える。………
四月二十五日。………午前零時、送り出して勝手口の戸締りをする。それから約一時間、病室にいて鼾ごえに耳を澄ます。